2010/08/24

帝国主義的グロバリゼーション

ここ1、2年、新興国の内需をつかもうと、新たな取り組みを開始する企業が増えました。弊誌では、2006年3月号の「シンク・ローカル アクト・ローカル」や「中国ミドル市場を制する者が世界を制す」(2008年7月号)、「GE リバース・イノベーション戦略」(2010年1月号)など、新興国市場での着眼点や市場を制する手法を提示してまいりました。

今号の「帝国主義的グローバリゼーションの終焉」(C・K・プラハラッドほか)にも、新興国市場へどのように進めばいいのかが示されています。その中の一つに、「新興国市場ではミドル・クラスがカギ」だというものがあります。ミドルと聞くと、私たちは中産階級を想像しますが、そうではなく、新興国のミドルは先進国のミドルとは所得や生活様式などが全く異なったものです。ここを理解せずに新興国のハイエンドの市場を狙って失敗してしまった。このような事例がいくつか紹介されています。

もう一つ、論文の著者であるプラハラッドらは、ブランド・マネジメントについても考えを改める必要があると言います。先進国で有名なパワー・ブランドを有する企業は、とかく新興国でもそのブランドが浸透しやすいと考えがちです。コカ・コーラがそうでした。当時、インドでは地元で人気のコーラ〈サムズアップ〉がありましたが、コカ・コーラはこの会社を買収したものの、当初は〈サムズアップ〉をお粗末な代用品として軽んじていました。

ところが、コカ・コーラは思ったように売上が伸びず、徐々に〈サムズアップ〉にシフトしていきます。先進国での価値観がそのまま通用すると思ってしまう点が、この論文のタイトルにもなっている「帝国主義的グローバリゼーション」であり、これではうまくいかないことをコーラの事例は示しています。このほかにも、論文には流通や人材、製品開発などについて、考えなければならないポイントがいくつか示されています。

日本企業のなかには新興国でもブランドを確立した会社もあります。その一方で、やはり数多くの企業が失敗を積み重ねてきました。この論文は、新興国に進出するにあたって、数多くの視点を提供するものです。1998年当時、インドに着目している日本企業はほとんどありませんでした。本来でしたら、98年の時点でお読みいただけるようにすればよかったのですが、今、読んでもまだ十分に考えさせられる論文だといえます。(岩崎 卓也)

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▽今号(2010年9月号)「マッキンゼー賞 経営論の半世紀」の詳細とご購入
http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?isbn=059690910
▽バックナンバー(2006年3月号)「シンク・ローカル アクト・ローカル」
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▽バックナンバー(2008年7月号)「中国ミドル市場を制する者が世界を制す」
http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?isbn=059690708
▽バックナンバー(2010年1月号)「GE リバース・イノベーション戦略」
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2010/08/20

長寿企業の秘訣(3)

企業にとって、存在し続けることは第一の使命である。こう掲げながらも、短命で終わってしまう企業は少なくないのが現状です。そのなか、長寿企業にはどのような共通点があるのか。長寿企業に関する論文、今号の「リビング・カンパニー」(生命力ある企業)について、こちらのブログではこれまで2回にわたり紹介しました。論文を読むと、事業よりも人を大切にし、組織と人との間で信頼関係が築かれているところに、長寿企業の共通点があることがわかります。

詳細については、前回、バラのたとえ話を紹介しましたが、今回はリビング・カンパニーの組織的特徴の一つ、「学習する組織」をつくるに焦点をあて紹介します。どのような組織が「学習する組織」になれるか。著者のアリー・デーグースは、鳥の調査結果をもとに、「シジュウカラ型」と「コマドリ型」に分けて、組織の特徴を説明しています。

その昔、牛乳はスーパーで買うのではなく、配達人が個々の家の軒先に置いていくのが通常でした。そのときに、鳥についばまれないように、アルミのシールをかぶせるようになったのですが、シジュウカラはアルミシールに穴をあけることを覚えてしまい、結局、このシールは牛乳を守る役割を果たせなくなってしまいました。ただ、アルミシールに穴をあけることを覚えたのは、シジュウカラのほうで、同じ野鳥でもコマドリはできませんでした。なぜ、シジュウカラは学習できたのか。

シジュウカラの特徴は群れで行動する点にあります。他方のコマドリは縄張り意識が強く、相手に対して陣地から出ていくように互いにけしかけます。シジュウカラの中には、何羽か好奇心旺盛でアルミのシールに穴をあけようと果敢にチャレンジした者がいました。そして、それだけでなく、その成果を他の鳥に伝播した者もいた。このような仕組みができていたので、組織全体の学習能力が高まり、アルミのシールに穴をあけられるようになったといえます。

組織の中には、何人かのイノベーターがいるものですが、この人たちが他者と交流するように組織が後押しすることが必要です。コマドリのように、互いに自身の縄張りを主張しているうちは、アルミシールに穴は開かないということになります。
この鳥のたとえ話はたいへん面白かったですが、このほかにも、「リビング・カンパニーはいい意味でケチである」「おのれを知っている」など、多数の事項が論文からは読み取れます。自身の組織にあてはめてお読みになると、より理解が深まるのではないかと思います。(岩崎 卓也)

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2010/08/17

マッキンゼー賞とポーター

マッキンゼー賞を3回以上受賞した人のなかには、組織行動学のデイビッド・A・ガービンなど、ハーバード・ビジネス・スクール内では有名であるにもかかわらず、日本ではあまり知られていない学者もおります。今号を読むメリットには、これまで、深く着目せず、読み落としていた論文がないか、再確認の機会になるという点もあげられます。

もちろん、受賞者のなかには、ポーターをはじめ、日本でも有名な学者がおります。ポーターについては、先月、当ブログでさまざまな角度から解説しました。今日のブログ記事では、ポーターに関する補足的な事項が中心になりますが、まずは、今号掲載となった論文のタイトルから紹介すると、「競争の戦略」のほか、1987年【金賞】「競争優位の戦略:「企業戦略」を再考する」、1996年【銀賞】「戦略の本質」など6本があります。

ところで、ポーターの理論には反論もありますが、IT企業や飲食産業などに着目すると、ポーター戦略が役に立っていることがわかります。ただし、以前の繰り返しになりますが、ポーターの読み方のコツはポーター戦略に頼り切らないことです。論文には、バリューチェーン、ポジショニングなど、それぞれ考えるポイントが複数提示されています。たとえば、ファイブフォースならば、自身の産業では「本当にこの5つだけなのか」と一度疑い、考えることが大切なのだと私は思っています。

要するに、型通りに戦略論を利用するのではなく、応用することが重要です。では、どのようにしたら応用できるか。たとえば、2001年【金賞】「戦略の本質は変わらない」などは、応用の仕方が探れる論文だといえます。最近、ポーターの『競争の戦略』が売れているようですが、一人の学者について主要な論文だけでなく、別の論文をも読むことでより理解を深める。これも一つの読み方としておすすめします。(岩崎 卓也)

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▽今号(2010年9月号)「マッキンゼー賞 経営論の半世紀」の詳細とご購入
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▽ポーターのマッキンゼー賞受賞論文
・1979年【金賞】「競争の戦略:五つの要因が競争を支配する」
・1987年【金賞】「競争優位の戦略:「企業戦略」を再考する」
・1996年【銀賞】「戦略の本質」
・2001年【金賞】「戦略の本質は変わらない」
・2002年【銀賞】「競争優位のフィランソロピー」
・2006年【金賞】「競争優位のCSR戦略」
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2010/08/13

未訳だったプラハラッドの論文

今号の特集では、過去にマッキンゼー賞を受賞した論文を掲載しています。ビジネスパーソンにとって、読んでおかなければならない必読論文が多く、また、なかには、「帝国主義的グロバリゼーションの終焉」(C・K・プラハラッド他)のように、日本語で初めて翻訳されるものもあります。こちらは初の邦訳ということもあり、初めて目にする方も少なくないのではないでしょうか。マッキンゼー賞を受賞したのが1998年、このときすでに今後、新興国経済が台頭すること、グローバル経済が再創造されることなどを予言した論文です。

驚かされるのは、きわめて先見的な内容である点です。それは、ドラッカーがベルリンの壁の崩壊を予言したのに匹敵するほどであります。BRICsという言葉が登場したのが2001年。そのはるか以前に、プラハラッドらはインド、ブラジル、中国に着目して、これらの国が今後伸びるだろうと読んでいました。また、近年、「BOP(Bottom of the Pyramid)」という言葉を耳にする機会が増えましたが、「帝国主義的グロバリゼーションの終焉」を読むと、こちらの論文ですでにBOPの概念を提示していたことがわかります。論文発表当時、日本語に翻訳されていたなら、日本企業の新興国への意識は変わっていたかもしれない。そう思うと残念でなりません。

この論文でタイトルにもなった「帝国主義的グロバリゼーション(Corporate Imperialism)」とは、自分たちの流儀を現地に押し付ける、まるで昔の植民地のような市場開拓の手法をさします。これではうまくいかない時代になったことに企業は気付かなければならない、とプラハラッドらは主張します。では、どのように攻めていったらいいのか、論文では詳細を提示しています。

ところで、今回は有名な論文が多く掲載されているため、これまでに読んだことのあるものも少なくないと思います。既読の論文については、ぜひこの機会に再読をおすすめいたします。よく本を読まれる方はご存じと思いますが、論文に限らず名書とは繰り返し読むたびに理解が深まっていくものです。同じ論文でも、再読してみると、時代の変化によって、前回とは違った発見があるに違いありません。くわえて、忙しさの中、短時間で読み終えた論文については、再読は忘却しかけたものを呼び戻し、定着させる効果もあります。(岩崎 卓也)

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▽今号(2010年9月号)「マッキンゼー賞 経営論の半世紀」の詳細とご購入
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2010/08/10

長寿企業の秘訣(2)

今号(2010年9月号)「マッキンゼー賞 経営論の半世紀」では、過去の受賞論文全112本を紹介します。前回、こちらのブログでは1997年に受賞した「リビング・カンパニー」(生命力ある企業)の概要を解説しました。今回は「生命力ある企業に共通していること」は何かについて触れます。

結論を先に言うならば、「事業よりも従業員を大事にする」ということが一つとしてあります。リビング・カンパニーであるデュポンは火薬製造会社として創業されましたが、いまは特殊化学品の会社として事業を続けています。それは、デュポンが大切にしているものは企業というコミュニティだからです。つまり、事業のために自ら進んで人を切ることは原則しない。人を活かすために事業がある。このような考えがリビング・カンパニーに共通しています。

このことを著者のアリー・デ・グースはバラの剪定のたとえ話によって説明しています。大きなバラを咲かせたいのなら、元気のよい枝だけを残し、ほかを間引かなければなりません。この剪定方法に対して、「本当に大きな花を咲かせる必要があるのだろうか」「夜霧の被害にあったら、一つも花が咲かない年も出てくるのではないか」、と問いかけます。

大輪を咲かせようと枝を切ると組織としてのもろさが露呈するものです。むしろ、一つの苗木に5〜7本の枝を残したほうが、確実に毎年花を楽しむことができます。バラはバラとして美しさを活かそう。そのために、事業よりも人を大切にする必要がある。著者のアリー・デ・グースはこのように言います。さらに掘り下げて、リビング・カンパニーの共通点について、「保守的な財務」「環境変化に敏感」「おのれを知る」「新しいアイデアに寛容」、と4つを掲げています。これらについては、示唆に富む鳥のたとえ話と一緒に別の機会に紹介します。(岩崎 卓也)

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