2010/02/09

成熟したリーダーがたどり着くところ

次号(2010年3月号)では、特集の最初に歴史学者ドリス・カーンズ・グッドウィン氏のインタビューを掲載しました。タイトルは「リンカーン流リーダーシップ」です。インタビューに答えたグッドウィン氏は経歴欄からも才女であることは明らかですが、一躍有名になったのは、バラク・オバマ大統領が彼女の著書『Team of Rivals』(リンカーンの伝記)を愛読書にしていることにあります。記事では、リンカーン、オバマなどアメリカ大統領のリーダーシップについて2時間にもわたり語った内容が凝縮されています。

ところで、オバマといえば、「黒人初の大統領」「スピーチが上手」などと形容されますが、グッドウィン氏はそれだけではなく、オバマがリンカーンに倣った点に着目しています。中でも、リンカーンが反抗分子を集めてチームをつくった点、つまり異論や反論を恐れず、大統領選のライバルすら集めて組閣したことをオバマは倣っているといいます。

たしかに、オバマはヒラリー・クリントンを国務長官に、ライバルのジョセフ・バイデンを副大統領に抜擢しました。ただし、ライバルに権限を与えれば、何でもいいというわけではありません。リンカーンは反抗分子の意見をうまく聞き、改革を進めて、「奴隷解放宣言」の発布に至りました。この先、オバマが形だけではなく、結果を出せるかどうか。そこがリンカーンになれるかどうかの試金石だということでしょう。

もう一つ重要なのは、リンカーンは「だれにも寛容だったこと」があります。一般的に、部下がルールを破り、かつ、その仕事が失敗に終わったとき、上司はその部下をひどく叱るでしょう。ところが、たとえルールを破っても結果が成功なら、プラスマイナスゼロでおとがめなしのことがよくあります。たとえば、アメリカのとくに金融機関などでみられる「トカゲのしっぽ切り」のような風潮は部下の失敗に対する上司がとる対応の典型で、これはある種、組織の知恵ではありますが、そこには「寛容」と呼べるものはありません。

リンカーンなら、部下に対してどのような態度をとったでしょうか。リンカーンはルールを破ったことは叱りますが、部下の責任は自分の責任だと考え、自分で負いました。良くも悪くも基本的に切り捨てることはしません。ルールを破ったことと、結果の責任を負うことの両方を分ける。これができる人は、意外と少ないのではないでしょうか。とても難しいことで、それでいて重要なことなのではないかと私は思います。

リンカーンの部下との関係は「親分と子分」の関係にも似ており、日本的ともいえます。周囲には、リーダーとして成熟した人、未熟な人、さまざまなリーダーがいますが、人はリーダーとして成熟していくと洋の東西を問わず、結局は同じ人間として、同じところにたどり着くような気がします。ということは、アメリカ的経営を押しつけ、ここによすがを求めているようでは、成熟度という点では未熟である。このように感じるときがあります。(岩崎 卓也)

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▽次号(2010年3月号)の発売は2月10日の予定です。

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2010/02/05

古くなった常識から抜け出すには

次号(2010年3月号)のタイトルは『逆転の思考 ステレオタイプを排す』で、文字通り「ステレオタイプから抜け出す」ことに主眼を置いて特集を組みました。日本には、いまだ欧米型の経営理論がもてはやされる傾向があります。もちろん、マネジメントの理論を勉強し、知識を身につけることは最低限必要とされる事項です。とはいえ、欧米型の理論、しかもステレオタイプなものをあがめることは正しいのか。弊害はないのだろうか。次号では、古くなった常識にこだわることなく進化についていくため、ステレオタイプな理論を検証するのに役立つ論文を掲載しました。

雑誌の制作では、論文ごとに終了する時期が異なります。早く終わるものもあれば、そうでないものもある。次号に「東洋的思考のすすめ」という論文があります。こちらは次号の中で、もっとも遅くまで手がかかったものです。1978年のマッキンゼー賞を受賞しておりますが、とにかく難解な英語で書かれており、翻訳が難航しました。

執筆者のリチャード・ターナー・パスカルは、元 スタンフォード大学経営大学院 教授で、日本ではあまり知られておりませんが、70年代の日本を研究した学者の一人といわれています。彼は日本の「あいまいさを尊重する点」「表と裏(本音と建前)を使い分けるところ」などに着目しました。こう書くとドラッカーを思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。実は、パスカルとドラッカーの見方には共通するところがあります。

ドラッカーは「フリードリヒ・ユリウス・シュタール」で“polarity”という単語を用い、両極性について触れました。また、「日本画のなかの日本人」で、彼は日本画にみられる日本人の両極性を指摘しています。リチャード・ターナー・パスカルもアンビバレンスについて触れており、これが日本的経営の強さである。アメリカ人が学ぶべきことだと言い、 “choice”(選択)と“decision”(決定)という、二つの言葉を用いて解説しています。

アメリカ企業では、ご存じ、白黒をはっきりつけることが一般的です。decision treeがいい例ですが、ふるいにかけて最終的に一つのソリューションが「決定」されます。他方、日本は状況に応じて「選択」します。要するに、日本人は“decision”ではなく、“choice”する。これはアメリカ人からすると、あいまいに映るでしょう。けれども、アメリカのように決定されたものに身を委ねることはギャンブルのような要素もあり、当たったときはいいですが、はずせば失敗につながります。つまり、欧米型の「決定」は出した結論にミスが生じる可能性が高いといえます。

日本のような状況に応じた「選択」は、最初に選ばれなかったものの価値を留保できるメリットがあります。今の時代、これが意外と大事なのでしょう。一度外されたものでも残しておけば、たとえば、環境の変化に対応しなければならない場面が生じたときに有用になります。

日本には優れたところがたくさんあります。それなのに、日本には欧米型のマネジメント知識を金科玉条にする傾向が残っています。この状況のままだと日本企業の力は弱まってしまう気がしてなりません。欧米型の考え方ができないとバカにされるような風潮に対して「ノー」を言える。ここに、このパスカルの論文をもう一度読む意味があると私は思います。(岩崎 卓也)

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2010/02/02

「健康寿命」を延ばすには

いまや長生きすることに気を配るだけでなく、心身ともに健康な状態でいられる「健康寿命」を延ばしていくことが大切だといわれています。20年、30年後の自身を考えたとき、70歳を過ぎても仕事があり、あるいは何らかの形で社会とかかわり合いを保ち、生きいきとしていたい、と願う方は少なくありません。それには、中年期のインプットがないと、60歳を過ぎてから新しいことを始めようとしても、気持ちがなえてしまうでしょう。そこで、先日こちらのブログで「中年期マネジャーの心得」などの論文を紹介しました。

中年期のインプットと同様、健康寿命を延ばすために大切な要素を考えてみると、お金のことははずせません。今から20年くらい前になりますが、年代別に年金の払い込みと受取額(現在価値ベース)を計算したことがあります。結果、昭和40年生まれ前後の人が、払込金額と受取金額がイーブンでした。当時は金利が今より高いこともありましたし、私が若かったせいもあるでしょう。上司に、年金を払うより貯金したほうがいいではないかと話し、ひどく叱られた記憶があります。

それでも、引き下がることなく、自分よりも上の世代は年金という金銭的な恩恵をたくさん受けるのだから、給料体系を調整すべきだと正論を吐き、重ねて怒られたことがあります。バブル経済の頃でしたから支払う家賃は高かった。他方、私たちより上の世代は土地の価格が安い時期に家を買ったためローンの月々の支払いが安い。つまり、我々は住居費などの生活していく上でのコストが上の世代よりも多くかかっていました。世代によって、受ける恩恵が違いすぎるのはよくない、と反論しましたがうまく受け入れてもらえませんでした。

企業の福利厚生や給料を考えるときに、世代間の格差、不公平感を視野に入れないで、たとえば福利厚生費を一律に減じる、あるいは増加していくのは適切ではありません。とはいえ、世代といっても、漠然としており、どこかの年齢で線引きした時、生まれた年が一年違うだけで、不利、有利の差が大きく出るのは、また別の意味で不公平であり、やる気をそぐもとになります。

こう考えると、60歳で楽隠居できることはとても難しいことのように思えます。定年を45歳にして、あとはそれぞれが好きなことに時間を費やすという考えを述べる人もいますが、それも実現は難しいでしょう。そこには、実務上の適応のむずかしさがあると、最近、年金や福利厚生、給料について考え、改めて感じました。(岩崎 卓也)

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2010/01/29

金のなる木は永遠ではない

今号(2010年2月号)の「模範的チームはなぜ失敗したか」を先日紹介し、問題を解決することと同等に、「維持」していくことの難しさについて触れました。どんなに好調だった事業もかならずといっていいほど、シュリンクする時期が訪れます。この論文を読むと、いかに問題がないように見える組織でも放置してはいけないということがわかります。ただし、これは表面的な論文の解釈で、さらに深く読むと、環境は一定ではない。常に変わる可能性がある。したがって、適宜刺激を与えないと、どんなにうまくいっているものでも維持できなくなってしまうということが心の底にしみ込んでくるのではないでしょうか。

BCGが提唱した製品マトリックスでは、ご存じ「花形製品(STAR)」「金のなる木(CASH COW)」「問題児(PROBLEM CHILD)」「負け犬(DOG)」という4つの分類がなされており、金のなる木で得た利益をSTAR(PROBLEM CHILD)に回しなさい、そして金のなる木に育てなさい、と言われています。ただし、このマトリックスのもともとの意味はこれだけではありません。なぜなら、CASH COWがその場所に居続けられるかどうか、誰にもわからないからです。

このマトリックスは資金の循環論を示すもののようにとらえられがちですが、そうではありません。実は、CASH COWにも投資は必要なのです。うまくいっているからといって放置してはならないし、とかく私たちは維持することのむずかしさを忘れがちです。
さらにいえば、STARに投資すべきといわれますが、投資なら何でもいいかというと違います。バブル経済の頃、日本の企業では、新規事業がたくさん立ち上がりました。日本の社会には「普遍性の高い安全」があると、誤った認識が幅をきかせ、トレンドセッターのいうことを鵜呑みにした企業がおしみなく多額の支出をしました。まるで学園祭の模擬店のようなビジネスが乱立しましたが、誰も非難されることはありませんでした。

今は、バブル経済の時のような新規事業が乱立することもなくなり、外部環境が変化することはしっかりと考慮されるようになりました。それでも、巨大なコア事業を抱えている会社の中には、危機感が薄いところもあると感じることがあります。CASH COWの業績が急に落ち込むこともあるのです。「模範的チームはなぜ失敗したか」を深く読むと、何もせず安定した社会が続くことは難しく、よい組織を維持していくことはある程度の刺激が必要なこと、そして、これは問題を解決するのと同様に困難だということを改めて感じさせられます。今号の論文には、わかかっているつもりでも、ついつい忘れがちになってしまうことが多数載っており、「模範的チームはなぜ失敗したか」はその一つといえます。(岩崎 卓也)

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2010/01/26

東大EMPとリーダーシップ教育

先月、私は東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(東大EMP)を聴講しました。東大EMPとは『DHBR』2009年3月号の「アジェンダ・シェイピング・リーダーシップ」(横山禎徳 東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム 企画・推進責任者)に詳しくありますが、〈その目的は、これまでどこの教育機関も提供していない、全人格的なマネジメント能力を形成するための「場」を提供すること〉においています。当日、横山先生は医療システムの改革について話されました。印象深かったのは、「医療費」という概念をやめて「医療消費」と考えるという話で、今後医療にかかるお金をコストではなく消費だという発想に変えていくということを横山先生は話されており、なるほどと思いました。このほか、医療に関して多岐にわたるテーマについて話があり、内容の濃い講義を興味深く拝聴いたしました。

以前、私はビジネス・スクールの教育だけでは優れたリーダーを育成するには十分ではないと書きました。今号の「FROM the EDITORS」の繰り返しになりますが、リーダーには多様な知が必要で、マネジメントに関する知識だけでなく、学際的な知が要求されます。この私の問題意識にこたえるものとして、東大EMPがあるのではないかと思います。プログラムではマネジメント知識のほか、世界の宗教・哲学・思想から食料問題などの農学、脳科学、建築まで、幅広い分野でのプログラムが多数用意されています。事前にテーマが明らかになっており、カルチャーセンターの勉強とは一線を画しているところが特徴です。

ところで、東大EMPには隠れたミッションがあるといわれています。それは新たなエリート教育を施すことであり、将来、その「場」から日本の舵取りのカギになる人材を輩出するという思いがあります。これらを反映するかのように、受講生が発する質問のレベルは非常に高く、たいへん驚かされました。受講料は6カ月で600万円と、安いものではありませんが、海外には渡航費まで入れると、一週間程度で100万円以上かかるプログラムもあります。比べると日本の相場は安いといえます。次の第5期も定員がほぼ埋まるほどの応募があったということからも、東大EMPが提供する「場」へのニーズは確実にあるのでしょう。

リーダーシップは単にマネジメントの知識を詰め込むだけでは身につきません。体で覚える知や東大EMPで得られるような学際的な知識が必要であり、それにはさまざまな角度の教育を組み合わせることが大切です。日本では、リーダーシップの教育が多くなされていません。その中、「DHBR」を読むことで、自身の行動と論文に書かれている事項を照らし、実行できていること、大切だけど忘れていたことをセルフチェックする、そしてリーダーとしての心がけを再確認するのに役立つと私は思っております。(岩崎 卓也)

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